●急増する酒さ(しゅさ)
下の図のように顔に赤みやくすみが出ている人が、最近急増しています。
そういう人は、もしかして酒さかもしれません。
下まぶたには酒さは出ないので、下まぶたとほほの間に色のさかい目が現れるのが酒さの特徴です。
酒さの初期は赤みから始まります。気づかずに放置して悪化すると、乾燥したりかゆみを感じたりします。さらに悪化すると、皮膚がほてるように熱く感じ、ヒリヒリしたり、また、ブツブツとしたニキビのようなものができてきます。赤い部分をよく見ると、毛細血管が広がって、赤い線として見えるのが酒さの特徴です。
( ↑ 酒さの現れる部位)
酒さを起こした肌は温度変化にとても敏感で、温かい部屋に入ったときや入浴後、運動したあとなどに顔が真っ赤になり、熱感を感じます。
酒さの症状は何年も、時に10年以上も続くことがあります。長引いた場合、最終的に色素沈着となり、酒さのあった部分が茶色くなって残ることもあります(肝斑とよく間違われます)。
酒さはもともと欧米人に多かったのですが、最近、日本でも急激に増えています。
酒さの詳しい原因やメカニズムはわかっていません。
遺伝的な体質に、外部からの刺激や、免疫バランス・自律神経の乱れなどが加わって発症するとされています。
●酒さを悪化させるものは、人によって違う
酒さになってしまったら、まず、悪化の原因を探しましょう。
悪化の原因が人によって異なるので、「自分の悪化因子」を探すことが治療の大切なポイントになります。
たとえばどんなもので悪化する人が多いのでしょう。
アメリカ人での統計ですが、酒さの患者さんは、以下のようなもので悪化を感じています¹⁾⁵⁾(カッコ内の%は、酒さの患者さんのうちの何%の人が悪化を感じるかという数値です)。
・日光(81%)
・ストレス(79%)
・激しい運動(56%)
・熱いお風呂(51%)
・辛いもの(45%)
・スキンケア(化粧品)の刺激(27%)
・トマト(30%)
・かんきつ類(23%)
・チョコレート(23%)
・チーズ(11%)
・加工肉(10%)・・ハムやソーセージなど亜硝酸塩という保存料を含むもの。
(以下、%不明)
・冬場の冷たい風(部屋の中との温度差で血管が開くため)
・カフェイン
・喫煙
ただし悪化の原因は人によって異なるので、ここに挙げられているものをすべて避ける必要はありません。どういうときに酒さが悪化しているかを自分で日記のように記録して、悪化因子を避けるのがよいとされます(酒さ日記rosacea diaryといいます)³⁾。
アメリカの統計では、食事の中の悪化因子を避けることで、酒さの患者さんのうちの95%は改善を感じたと報告されています⁴⁾。それだけ、食事との関連性が強いのです。
化粧品に関しては、化粧品を使うのをすべてやめる必要はなく、つけてみて赤みが増したり刺激を感じるものを避けましょう。
●トマトとかんきつ類とチョコレート
前述したように、これらの食品で酒さの悪化を感じる人が20~30%います。
特にトマトやかんきつ類はビタミン豊富で肌によいイメージがありますが、酒さにはマイナスになることがあります。
これらに共通して入っている桂皮酸アルデヒドcinnamaldehydeという物質が関係しているのではないかといわれます。摂取して赤みが増す場合は、食べるのを控えましょう。
桂皮酸アルデヒドは、桂皮すなわちシナモンに最も多く含まれます。シナモンは、アメリカではお菓子やアップルソースなどの香りづけに多用されます。日本人はあまりたくさん摂る機会がありませんが、ある種の漢方薬には使われています(漢方の原料生薬に桂皮と書かれています)。また、スパイスを効かせたクッキーやアップルパイ、八つ橋のような和菓子にも使われていますので、これらを摂取して酒さが悪化する人は、控えたほうがよいでしょう(日本では肉桂=ニッキとも呼ばれています)。
注意していただきたいのですが、あくまでも、摂取して悪化する人は控えましょう、ということであり、桂皮は大半の人には悪影響しません。桂皮は体を温めたり胃腸の調子を整える作用があり、プラスの働きも大きいものです。
●酒さと腸の関係
皮膚と腸は関係が深いことが最近、注目されています。
便秘や下痢、ガスがたまってお腹が張るなどの症状がある人は、腸内細菌が乱れている可能性があり、それが皮膚に悪影響を与えます。酒さの人も、そのような腸の異常を抱えている人が多いことがわかってきています¹⁾。
以下のような腸の病気が、酒さと関係する可能性があります⁶⁾。
・SIBO small intestinal bacterial overgrowth (小腸に菌が繁殖する病気。お腹がパンパンに張ったり、便秘や下痢になる)
心当たりがある人は、胃腸科で検査を受けましょう。
●酒さを防ぎ、肌をきれいにする食事
欧米では酒さの患者さんがとても多く、アメリカでは10人に1人は酒さを経験するともいわれます。
酒さを改善する食事はRosacea Diet(酒さ食)といわれ、以下のようなものが推奨されています。⁶⁾⁷⁾
・抗酸化物質(緑黄色野菜、ベリー、大豆など)
・オメガ3脂肪酸(青魚、鮭)
・腸内環境を整えるもの(食物繊維を含むものや腸の善玉菌を増やす食品)
・玄米や全粒粉などの精製されていない穀類
●避けるべき食事
酒さ日記をつけてみて、自分の症状が悪化する食品を探し、まずはそれを避けます。
また、一般的に、以下のようなものは酒さを悪化させるといわれます。
・Added sugar(添加糖)・・(知るログ1参照)
・オメガ6脂肪酸(大豆油・コーン油などの植物性油脂、菓子パンや市販のお弁当、外食でとる油全般。オリーブ油以外の身の周りの油はほとんどがオメガ6を多く含む)
・白米や精製された小麦粉
・アルコール、辛いもの
●酒さの治療
自分でケアしてみても酒さが改善しない場合は、皮膚科を受診しましょう。
皮膚科では、飲み薬や塗り薬による治療のほか、レーザー治療なども行われています。
¹⁾Dermatol Pract Concept. 2017 Oct; 7(4): 31–37.
²⁾https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3013591/
³⁾https://www.mdedge.com/sites/default/files/Document/September-2017/084010043.pdf
⁴⁾https://www.rosacea.org/rosacea-review/2005/fall/hot-sauce-wine-and-tomatoes-cause-flare
⁵⁾https://www.mdedge.com/sites/default/files/Document/September-2017/084010043.pdf-ups-survey-finds
⁶⁾https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5718124/
⁷⁾https://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/jf3007008