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小腸の悪玉菌が、肌荒れの原因に!
腸と肌の関係が注目されつつあります。
ヨーグルトや乳酸菌など、腸内環境を整えて肌をきれいにするものが人気です。
でも、それらで効果を感じられない人も多いよう。そういう方は、一度、見直しをしてみましょう。
腸は、大腸だけではないのです。
小腸について、近年、急速に解明が進んでいます。大腸に悪玉菌が増えると、便秘や下痢になったり肌荒れしたりするということはよく知られていますが、小腸の菌のことは、長い間、あまり知られていませんでした。
胃は胃カメラで、大腸は大腸カメラで見ることができますが、小腸にはカメラがなく、小腸は、医学の世界では、昔から「暗黒の臓器」と言われてきました。小腸の状態について、検査する方法がほとんどなかったのです。
しかし最近、飲み込むタイプのカメラが開発されたことなどもあって、小腸のことが少しずつわかるようになってきました。
小腸と大腸って「??」という人も多いと思いますので、簡単にご説明します。
食べたものは、胃→小腸→大腸と運ばれます。
(薄いピンクの部分が大腸です)
大まかにいうと、食物を胃酸で溶かす→小腸で栄養を吸収する→残りカスが大腸で大便になる。
という流れです。
小腸の後ろ半分の部分を回腸といいますが、そこで栄養の大半を吸収しています。そこにも腸内細菌がいて、そこに悪玉菌が繁殖すると、栄養がきちんと吸収されなくなります。
特に最近注目されているのが、SIBO(シーボ)と呼ばれる疾患です。Small Intestinal Bacterial Overgrowthの略で、日本語では小腸内細菌異常増殖といいます。小腸に悪玉菌が増えて、正しく栄養を吸収できなくなり、肌荒れや脂肪肝など、様々な病気につながるといわれています。
SIBOの患者さんの多くに、「食後におなかが張る」という症状が現れます。
食べたあと、30分~1時間くらいたつとおなかが張ってくる、パンパンになって苦しい、というものです。
その他、便秘、下痢、ガスが出る、などの症状も多くみられます。
これらの症状に当てはまる人はもしかしてSIBOかもしれません。
SIBOは、酒さ(ブログ4回目参照)という肌荒れと密接な関係があります。また、腸からの脂溶性ビタミンの吸収をさまたげ、ビタミンA,D,Eや葉酸などの欠乏症をひきおこすことも知られています。
過敏性腸症候群と呼ばれる腸の病気があります。
原因不明に便秘と下痢を繰り返し、その多くがストレスによるものと診断されることが多いようです。しかしその半分以上は実はSIBOであるとの報告があります¹⁾。つまり原因が大腸ではなく小腸にあるのではないかということです。
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SIBOの原因
原因については、解明しきれていません。
関係があるとされているのは、胃酸分泌の低下、加齢や何かの疾患の影響で小腸の動きが弱くなる、アルコールなどです。
甲状腺機能低下症、膠原病、糖尿病などの人は、腸の動きが弱くなるので、SIBOになりやすくなります。
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SIBOの原因になる薬剤¹)
・胃酸を抑える胃薬:これらの長期使用はSIBOを引き起こす可能性があります。特にPPI(プロトンポンプ阻害剤。薬物名でオメプラゾール、エソメプラゾールなど)との関連があります。最近増えている逆流性食道炎の治療薬としてもこれらの薬品が使われています。
・睡眠薬や抗不安薬:腸の動きを弱くするため、SIBOの原因になることがあります。
・抗生物質:頻繁に使うと、腸内細菌を乱してSIBOを引き起こします。風邪のたびに抗生物質を内服する、ニキビの治療で頻繁に抗生物質を使うなどしている人は、要注意です。
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SIBOが肌や体に与える影響
酒さという、顔に急に赤みやブツブツができる病気が増えています(ブログ4回目参照)
酒さの原因のひとつにSIBOがあるのではないかといわれています。酒さがある人は、ない人に比べて、SIBOに罹患している率が10倍近く高く、また、SIBOを治療すると酒さが治るという報告があります。SIBOによって栄養素の吸収が阻害されたり、小腸の悪玉菌が炎症物質を作り出すため酒さを発症するのではないかと考えられています²⁾。
SIBOはまた、脂肪肝や肝硬変などの肝臓の病気を引き起こすともいわれます³⁾。飲酒をあまりしないのに、健康診断でALT,AST(GOT、GOT)などの肝臓の機能を示す数値が年々上がってきている人は要注意です。
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SIBOの検査
みなさんがSIBOかもしれないと思った場合、検査を受けることもできます。
ごく一部の病院で検査が行われていますが、時間と費用がかかります。
呼気検査という、吐いた息の中の物質を測定するだけの検査ですが、数日前から食事制限を行う必要があり、また、検査に三時間ほどかかります。費用は保険が適用されないため7~8万円ほどになります。
検査を行っている病院は少ないので、検査を希望する場合は、インターネットなどで調べて問い合わせてから受診しましょう。
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SIBOの治療とは?低FODMAP(フォドマップ)食って何?
SIBOに対しては、小腸の悪玉菌を殺す抗生物質で治療することも可能ですが、強い薬になる上、殺菌しただけでは再発することも多いようです。
長く安全にSIBOを治療していくためには、食事の管理がベストです。
ある種の糖が有害な菌を増やしてしまうので、これらを避ける食事がSIBOの治療に用いられています。
それらの糖は、大きく分けて4種類あります。
《SIBOを疑った場合に避けるべき糖と、それを含む主な食品》
O(Oligosaccharides):オリゴ糖(ガラクトオリゴ糖とフルクタン)・・小麦、大麦、ライ麦、玉ねぎ、長ネギの白い部分、ごぼう、レンズ豆などの豆類、ビールなど
D(Disaccharides):二糖類(乳糖またはラクトース)・・牛乳、ヨーグルトなど
M (Monosaccharides):単糖類(果糖またはフルクトース)・・果物、蜂蜜など
P (Polyols):ポリオール(多価アルコール、糖アルコール)・・マッシュルーム、カリフラワー、甘味料(キシリトール、マルチトール、ソルビトール)など
これらを総称して、F(Fermentable:発酵性の)O,D,M,andP、その頭文字をとってFODMAPと呼ばれます。これらを避ける食事を低FODMAP食といい、SIBOや過敏性腸症候群の治療に用いられています。日本消化器病学会2014年のガイドラインでも、低FODMAP食を過敏性腸症候群の治療に推奨しています⁴⁾。
FODMAPを多く含む食品の中には、ゴボウ、ヨーグルトなどの腸によいといわれる食品も含まれているので、驚く人も多いでしょう。しかし、最近の研究では、それらも、SIBOなどの腸の病気を持つ人には、逆に腸に負担をかけることがわかってきました。腸に良い食品というものが、人によって違うのです。
SIBOや過敏性腸症候群がある人は、これらを一生避けなければいけないということではありません。まずは3週間、低FODMAP食を実行します。お腹の張りや便秘、下痢などの不快な症状が改善されたら、それから、O、D、M、Pそれぞれの糖類を1種類ずつ、摂ることを再開してみます。再開したときに、また不快な症状があらわれたら、その糖に関しては、多く摂ることは控えます。人によって、どの糖が特に合わないかが違うので、特に合わないものに関しては、長期的に、ある程度控えるように心がけます。
自分の腸の調子に合わせて、適量を探っていけばよいのです。
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これを食べてSIBOを治そう
お腹が張る、便秘や下痢がある、酒さがなかなか治らないなどの人は、SIBOが強く疑われます。検査を受けなくても、まず、自分で低FODMAP食を実行してみるのも一つの方法です。それで腸や肌が改善していく人も多いのです。
ただ、低FODMAP食を実行しようと思っても、避けなければいけない食品が多くて、食べるものに困ってしまいそうですね。
何を食べてはいけないかを考えるのではなく、食べた方がよいものを知って、それを積極的に摂るようにすると、あまりストレスになりません。
オーストラリアのMonash(モナシュ)大学の研究に基づく低FODMAP食が広く用いられています。
《低FODMAP食を行う際に、すすめられる食品》
野菜:もやし、いんげん、ブロッコリー、チンゲン菜、ピーマン、人参、キュウリ、レタス、トマト、キャベツ、たけのこ、白菜、かぼちゃ、オクラ、なす
果物:オレンジ、ブドウ、メロン、バナナ、キウィ
タンパク質:肉、魚、卵、木綿豆腐
乳製品:バター、無乳糖牛乳、無乳糖ヨーグルト※、ハードチーズ
穀類・イモ類:米、トウモロコシ、そば、ジャガイモ、キヌア、オート麦(さつまいもはNG)
ナッツ類:アーモンド(一回10粒まで)、カボチャの種。カシューナッツやピスタチオはNG。
飲料:コーヒー、紅茶はOK。
※現状、日本では無乳糖の牛乳やヨーグルトは販売されていません。唯一、乳糖不耐症の赤ちゃんのための粉ミルクがそれに近いものです。なお、無乳糖と無糖は異なりますのでご注意ください(無糖ヨーグルトは市販されていますが、それは無乳糖ではないので、低FODMAP食を実行する際には摂取できません)
Monash大学が以下のようなアプリを作成しており、これをダウンロードすれば、さらに詳しい低FODMAP食に関する情報が得られます。海外で作成されたアプリなので、日本の食材を中心とした情報ではありませんが、参考になります。
https://www.monashfodmap.com/ibs-central/i-have-ibs/get-the-app/
SIBOは見逃されているケースがとても多いと推察されています³⁾。
新しく見つかった病気なので、専門的に扱う病院も少ないのが現状です。
お腹の張り、便秘や下痢、酒さ、これらに悩む人は、一度、低FODMAP食を試してみてはいかがでしょう。自分の肌や体は、自分で守ることが大切です。
¹⁾Gastroenterol Hepatol (N Y). 2007 Feb; 3(2): 112–122.
²⁾Clin Gastroenterol Hepatol. 2008 Jul;6(7):759-64. doi: 10.1016/j.cgh.2008.02.054. Epub 2008 May 5.
³⁾World J Gastroenterol 2010 June 28;16(24):2978-2990
⁴⁾https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/IBSGL2_re.pdf